秩序無きところに性は乱れ、性の乱れたところには暴力がつきもの、創作においてそれを扱うということは、動物としての人間を描くという意味では、本質的な部分に迫る描写といえるかもしれません。
今回はそんな映画が得意な独特の世界観を持つ園子温監督の映画を2本紹介したいと思います。
恋の罪
2011年に制作された映画で主演は水野美紀です。
平凡な主婦と殺人事件を扱う刑事、2つの顔を持つ吉田和子(水野美紀)は、その2面性のある生活の裏側で泥沼の不倫に溺れていました。気丈にふるまう冷静沈着な刑事であり、母親であり妻である女が不倫相手の男に電話越しに自慰を指示されれば、逆らうことができず従ってしまうというなかなか過激な内容です。
気の強い性格の女が、男の前では言いなりになって息を荒げ、あらわな姿を見せるという表と裏の顔とのギャップが何とも言えない色気となって背徳的な淫靡さがあふれています。
水野美紀のヘアヌードのシーンもあり、濡れ場の演技もすごく淫靡です。水野美紀ファンならこれを見ないなんてもったいないと思うぐらい必見の映画です。
一方、神楽坂恵演じる菊池いずみは作家である夫との関係性に悩み、とあるきっかけでAVに出演することになります。それをきっかけに世界は変わっていきます。解放され変わっていくいずみは、次第に抜け出せない暗闇の世界に足を踏み入れて行く。
冨樫真演じる尾沢美津子はいずみの良き相談相手となり導いていきますが、その導く先には日常と乖離した異常な世界の入り口が待っていました。そしてある事件を追う和子もまた狂気の世界に導かれるように関わっていくというストーリーです。
神楽坂恵の抜群のプロポーションと、貞淑な妻の顔とのギャップがたまらなくエロティックで少しずつ性に開放的になるいずみの変化も見どころ満載です。
そして狂気の世界、事件の描写は衝撃的で人間とは何か、生活していく、生きていく、常識といった概念、それら当たり前に思っている私たちの日常を蝕んでいきます。
見終わった後、フィクションで良かったと心から思えるような一本に仕上がっています。
冷たい熱帯魚
こちらは2010年に制作された映画で主演は吹越満です。
こちらの映画は実際に1993年に起こった「埼玉愛犬家連続殺人事件」をモチーフに描かれた映画でです。
吹越満演じる社本信行は妻と娘の3人暮らしで、自営業の熱帯魚店は軌道に乗らず、家族との仲も芳しくはないという状態です。そんな中、幸雄という人物から高級熱帯魚の養殖という儲け話を持ち掛けられます。
話を聞き、幸雄と関わっていくうちに少しずつ歯車が狂い始めていきます。
妻が幸雄に寝取られ、折り合いの悪い娘もいつの間にか幸雄の養殖場の手伝いを始める。
少しずつ幸雄に生活が侵食されていき・・・そして事件が起こります。
信行の妻役である神楽坂恵演じる社本妙子の抑圧された性欲が妙にエロティックです。
そして殺人事件が起こり、狂気の世界にスライドしていく日常の表現。かなりグロテスクな表現もあるため、苦手な人は要注意です。
一線を越えたところで人間がどう考えてどう行動するのか、そのときその人間は何を感じて何を見ているのか
正常と異常の線引きというのはどこにあるのか、まるで日常の作業のように死体を隠ぺいする殺人犯など、彼らにとってそれは当たり前のことで、何も異常なようには見えていないのかもしれません。
性も暴力も異常と正常の線引きは実は曖昧で、貞淑な妻にとって、不倫の関係性は異常で、非日常で、やめられないものである一方、AVや風俗で性を売り物にし、線引き自体を放棄した時に非日常であったものは何でもないありふれたものに変わってしまうのです。
女優神楽坂恵さんは監督である園子温さんの奥さんです。いろんな映画で、奥さんである神楽坂さんのいろんな濡れ場のシーンを撮っていますが、どういう気持ちで撮るのか…そのあたりも想像しながら見るとよりエロティック…かもしれません。
園子温監督の映画をこれから見る人へ
当たり前ですが日常において暴力は犯罪ですし、命を奪うことも罪です。
その線引きを放棄してしまった人はもう異常と正常の線引き自体が見えないのかもしれません。罪とは犯すものですが、棄てることでもあります。そんなことをついつい考えてしまいます。
平和な日常というものは本当にありがたいものです。安心して暮らせるということは尊いものです。
こんな映画を見ると本当にそう思います。そう思わせてくれるくらいに園子温という監督は異常な世界を描くことが巧みです。
園子温監督という監督はこういう映画を撮らせたら本当に超一流なのかもしれません。
園子温監督の映画を見終わった後は、何気ない日常のありがたさを心から感じ取ることができるかもしれません。
また、人間の性の部分に特化した映画は園子温監督の作品をはじめ、エロ映画研究所にもたくさんレビューが掲載されていますので、ぜひ一度ご覧になってください。